修復とはプロフィール修復家の眼差し(コラム)修復家の小論工房便り
森絵画保存修復工房


修復とは

修復とは何か、私たちはいつも問い続けています。

修復の処置は、常に作品にない異物を加えたり除去したりという「取り返しのつかないこと」なので、とても重い責任を負っていると私たちは考えています。もちろん、私たちは最新の情報を取り入れ、修復前の状態に戻せるように後で取り除きやすい材料を用い、過剰な処置をしないように努めています。(例えば補彩には、水彩など安全に除去しやすい材料を使います)。しかし、絵具層の下方に入れた接着剤は後で取り除きようもないし、除去してしまった汚れやワニスをもとに戻すこともできません。科学的裏づけや倫理規定や真摯な姿勢が、修復を正しい方向に導いてくれるとは限らないのです。

いかに修復すべきか、導き出される解答は、一点一点異なります。その作品を見ることから修復が始まります。

一般に平面として鑑賞される絵画は、私たちにとっては多様な層からなる立体です。先入主なしに、あらゆる角度から、光源を変え、拡大し、迷宮に入り込むように、それを見ること。これが、修復の方針を決める大きな要因となる最も重要な仕事で、こうして見る喜びの上に成立するのが修復だと、私は思っています。

そこで得られた情報をもとに、どのようにして描かれ、なぜ、どのようにして今の状態に変化したのか、修復すべきか否か、どのように修復すべきか、可能な限り精緻に論理を組み立てます。こうして修復方針を提案するのは私たちの仕事ですが、私たちだけで全てを決定しようとは思っていません。作品を愛し、現在持っている意味を最も理解している所有者と情報を共有し、一緒に考えることを私たちは望んでいます。それは、修復の過程のなかで、最も大切で、楽しく、稔りをもたらす時間だと信じるからです。

修復とは何か、私たちと一緒に考えてみませんか。


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